遠赤外線検出器


遠赤外線検出器とは、遠赤外域の電磁波を検出する装置です。 電磁波には波長によって様々な種類があり、例えば我々が目で見ることのできる可視光(770nm〜380nm)、 日焼けの原因となる紫外線(380nm〜0.1nm)、携帯の通信に使われる電波(1mm以上)等など。 その中でも、今回我々が検出しようと考えているのは、 遠赤外線域と呼ばれる波長のうちの50μm〜200μmの波長域です。
 この遠赤外線検出器にはその動作原理によって様々な種類があります。 その中でも大きく2つに分けることができ、1つは遠赤外線の検出器に入射する光のエネルギーを状態変化によって感知する熱型検出器、 2つ目は入射する光による光電効果で検出する量子型検出器になります。

@熱型は入射した赤外線の量を温度変化で検出するボロメーターや、 赤外線による熱効果で特定の気体の体積が膨張することによって検出するゴーレイセル等があります。
熱型の多くは広い波長域で安定した感度を持つことができるのですが、応答速度遅いという欠点もあります。

A量子型はその引き起こされる電気現象によってさらに3種類に分類できます。
  1. 入射した赤外線によって励起されるキャリアで、導電率が減少することを検出する 光起電力型は、赤外域での他の検出器より検出能力が非常に高くなります。 しかし一般に応答速度が遅くなります。
  2. 半導体のエネルギーギャップを利用する光伝導型は、 検出できる波長域は狭いが応答速度が高くS/N比が良いです。
  3. 二次電子放出効果を利用した光電子放出型は、光増幅器の一種で、 高感度なのですが、大型で消費電力が大きいという欠点もあります。

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圧縮型Ge:Ga検出器


Ge:Ga検出器は現在最も使われている遠赤外線検出器であり、 少量のGa(ガリウム)Ge(ゲルマニウム)にドープした単結晶を用いたP型半導体素子です。 この素子は波長50〜110μmに有効感度を持ちます。
 Ge:Gaのアクセプター準位価電子帯とのエネルギーギャップは10.8meVであり、 波長に換算すると約110μmとなります。
 よってその長さの波長の光が来ると、価電子帯にある電子が励起され アクセプター準位に押し上げられます。 そうすると価電子帯にはもともと電子があったところにホールができます。 ここでバイアス電圧を素子にかけてやるとホールが移動して電流が流れ、 その電流を検出するわけです。

 このようにGe:Ga素子は〜110μmまでの感度は持っているのですが、 さらに感度を持つ波長域を長波長側に延ばす方法があります。
 その方法とは加圧することです。
 実はこのGe:Ga素子は一軸性の圧力(500N/mu)をかけると、 長波長側(110μm〜220μm)に有効感度波長帯が延びるという性質を持つのです。  なぜこのような性質を持つかといいますと、 Ge:Ga素子の価電子帯の頂点は軽いホール、重いホール、スピン・軌道相互作用によるホールの 3つが縮退しているからで、この縮退は加圧することによって、 軽いホールと重いホールが分離して、 重いホールのエネルギーバンドがアクセプター準位に近づき、 エネルギーギャップが4.6meVとなるのです。

 よって、圧縮後は有効波長感度が〜220μmとなるわけです。

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量子効率の向上


 Ge:Ga素子の吸収係数は2.5[/p]と非常に小さいです。 これは素子に入射した赤外線のうち7.5%しか吸収されていないことを意味します。
 そのため、量子効率を上げるために赤外線を閉じ込め、反射を複数回行わせて、 素子を通過する頻度を高める構造が必要となるわけです。
 そのために入射口だけ開いている半閉空間キャビティに素子を配置する方法が一般的です。 更にキャビティまでに光を運ぶライトパイプも使います。キャビティ、ライトパイプ共に内側は、 赤外線に対しての反射率が非常に高い金でメッキされています。

 ここでキャビティの形状、サイズ、ライトパイプの形状、サイズ、更に素子の位置によっても量子効率が変わるので、どのようなキャビティ、ライトパイプ、 素子の位置が最適化を解析しました。
(阿部博史 2004)
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素子の小型化


 素子は次の理由から小型であることを求められます。

  1. 必要応力を下げるため
    例えば500N/muの圧力を素子にかけたいときに 素子の断面積が1muだと必要な応力は500N、2muだと1000N必要になり より大規模な加圧機構を必要とします。
    よって素子が小型になることは必要応力が下がり、 加圧機構が小型化することができるのです。
  2. 宇宙線衝突頻度を減らせるため
    宇宙線に検出素子が衝突されるとスパイクノイズが生じて 赤外線検出の阻害になります。
    そこで素子が小型化することによって衝突頻度を減らすことができ、 正常な検出を行いやすい環境にできます。
  3. キャリアの収集効率を上げるため
    光電効果によって生じるキャリアはある確率で他の電子と対消滅してしまいます。 そこで素子が小さいと、つまり電極間の距離が小さいとたどりやすくなるわけです。
    よって小型化はキャリアの収集効率を上げる効果があります。
  4. 検出器の小型化のため
    素子が小型化すれば、同じ体積により多くの素子を並べることができ、 同じ素子数で小型化ができるようになります。

 以上の理由から、素子の小型化は必要とされるわけです。
しかし、あまりにも小型になると加圧した時に破損しやすく、 組み立てが困難となるので、経験的に0.5mm角が扱いやすい最小素子サイズとなります。

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干渉計からの要求


 下の図はFITEの干渉計に垂直に光が入射したときの干渉縞です。

 1本の干渉縞の識別には空間方向に4素子必要とされ、 図のように5本の干渉縞を識別するには20素子が必要とされます。 また、入射する光が傾く場合は更に30素子程度が必要となります。
 しかし、現在実現されているのは1列最大素子数15素子であり、 これ以上の素子数を増やすのは困難です。

 もともと、干渉縞一本の幅は4mm、つまり入射口の間隔を1mm間隔にすれば 一本の干渉縞の間隔に4素子配置できるように考えていたのですが、 この後に出てくる設計案では間隔1.5mmが限界なので、 光学系のほうで帳尻を合わせてもらい、一本の干渉縞で6mmの間隔が出るようにしてもらいました。
 FITEでは最低3本の干渉縞を識別したいので、3×4=12素子が最低必要となります。 そこで観測時に入射光が傾くことも考えて1列15素子を FITEの検出器として考えています。

 更に我々の研究室では更なる大規模アレイ化を目標に加圧方向と加圧に対して 垂直方向両方の素子数を増やすべく、研究を進めています。
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検出器の構造


 1つの素子に対して先ほど述べたような量子効率を上げる構造が1つ必要となります。 さらに圧縮型を考えると加圧機構も必要となり、それらを一まとめにして、 どのように並べるかが問題になります。
何の制限も無ければ、素子数は多ければ多いほど多くの情報を得ることができ、 高分解能へとつながります。
 しかし、ただ多くの素子を並べ過ぎると焦点面が大きくなりすぎてしまうのです。

 そこで素子の量子効率を上げる構造、もしくは加圧構造の小型化を行うことができれば、ひとつの素子に対する構造が小さくてすみ、 小さい焦点面に多くの素子を配置することが可能になります。


 右図は加圧機構の概念図になります。 ねじを締めることによって下にある素子を複数同時に加圧できる仕組みになっています。
 このように加圧方向に積み重ね、更に加圧方向とは垂直平面に素子を並べることによって、 2次元アレイの検出器ができます。


















 そして、今回FITE搭載用に考えられているのは下の図のようなキャビティプレートです。

 キャビティプレートとは検出素子を配置する基盤のようなもので、 この形状によって素子の配置、入射口の形状、ライトパイプやキャビティの形状を決まります。
 このキャビティプレートの特徴は、まず素子が入射口に対して手前、奥、手前…と 交互に配置されていることがわかります。これによってキャビティの径が1.5mmで、 入射口の横幅が1.5mmでも隣り合うキャビティ同士の間隔に余裕を持たせることができます。

 それに加え、加圧機構に用いる皿ばねの小型化に成功したことや、 加圧機構を上下に分けること等により、 理論的には加圧方向に対して垂直方向に1つの入射口の幅が1.5mmでは 無限に素子を並べることが可能である設計です。  現在、この設計を更に検討して、実際にFITEに搭載する検出器を考えています。

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検出器の性能評価


 検出器を作ったときに、実際に我々に検出器はどんな情報を教えてくれるのでしょうか?
検出器の性能を評価するための試験がいくつかあります。
  1. 光電流−バイアス電圧特性(I-V曲線)
    この特性は検出器に一定の光が入っている時、バイアス電圧を変化させると 素子を流れる電流が変化することを意味します。
    ここで言うバイアス電圧とはGe:Ga素子にかける電圧で、 このバイアス電圧によって素子のキャリアが光電流となって流れ出すのです。
    縦軸に光電流・I、横軸にバイアス電圧・VをとったグラフをI-V曲線と呼びます。 この曲線からバイアス電圧をどれだけかければどれだけの光電流、 つまりは出力が得られるかがわかります。
  2. 波長感度特性
     次に波長感度特性というものがあります。これは何かというと、この波長はこれだけ感度があり、 こっちの波長はこれだけしか感度が無いというような、波長によって感度が違うという特性です。
     先ほどGe:Ga検出器は波長50〜110μmに有効感度を持つといいましたが、 素子に赤外線がたどり着くまでに吸収される波長帯というものが存在します。
    そこで、実際にどの波長でどれくらい感度があるかを、入射する赤外線の波長を変化させて調べます。
  3. 絶対感度(DC感度とAC感度)
    検出器の最も重要な性能として、絶対感度というものがあります。
    これは入射してきた光子の量(W)を見積もって、 それに対してどれくらいの光電流(A)が得られるかというものです(単位は[A/W])。 この値が大きいほどより良い検出器であるといえます。
    DC感度とはその名のとおり直流(Direct Current)の光源対する感度である。
    AC(Alternating Current)感度は、光源からの光を周期的に遮ることによって、 背景放射と光源の光を分けて得られる感度である。 この測定は、高い背景放射の中で、観測したい天体からの光を見た場合の感度を知るために行う。
  4. 視野特性
     視野特性というのは検出器の入射口に対していくらかずれた角度からの光には どれくらいの感度を持つのかという性質です。

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