★FITE用遠赤外線検出器の評価実験★

1.センサー素子の有感波長

 人間が見ている赤〜紫の光以外にも様々な波長の光が存在することはご存知かと思います。 ではなぜ可視光線は目に見えて、赤外線や紫外線は目に見えないのでしょうか。それは人間の目が感度を持つ波長域に限りがあるからです。 ここでいう「感度がある」とは「光のエネルギーによって光を受ける物体の状態が変化し、その変化を付属器官(装置ならば付属機器)によって検出できる」ということを指します。 人間の目にはそれぞれ赤、青、緑を中心に感度を持つ細胞があり、これら細胞からの信号の強弱を脳が総合的に処理することによって人は色を知覚します。 では可視光線以外の光の存在を確かめるにはどうすればよいでしょうか。答えはいたって単純で、その波長域に感度を持つ検出器を用いればよいのです。 例えばスマホのカメラなども赤外領域に感度を持っており、リモコンの通信用赤外線(波長1μm弱程度)などが照射されているのを確認できます。

2.圧縮型Ge:Ga検出素子

 FITE用遠赤外線検出器のセンサー素子として用いられているGe:Ga素子はGeの単結晶に少量のGaを添加したもので、Ge単体のエネルギーバンドギャップである0.67eV(波長1.9μm程度)よりも小さいバンドギャップを持っています。 さらにこのGe:Gaの結晶軸方向に圧力を加えることによってより小さなバンドギャップを作り出すことができ、最終的に有感波長のピークを約155μmにしています。



3.検出原理

 FITE用遠赤外線検出器の検出原理は
@ Geの価電子帯にある電子が光によってGaの不純物電位に励起される。
A @によって価電子帯にホール(正孔)ができる。
B 素子にあらかじめ電圧(バイアス電圧)をかけておくと、生じたホールが素子中を移動し、電流となる。
C この光による電流変化を、読み出し回路を用いて電圧変化に変換して検出する。
という段階になっており、これらの動作を理解するためには物性だけでなく電気回路の知識も身につけていく必要があります。



detection principle
↑↑図1:検出原理の模式図


4.検出器の感度測定

 実際に検出器がどの波長域にどの程度の感度を持つのかを試験しました。 実験には黒体輻射を再現できる光源である黒体炉を用い、光を検出素子に当てている場合と遮っている場合のエネルギー量の差[W]で素子に流れる電流の変化量[A]を割るという方法で感度の計算を行いました。したがって感度の単位には[A/W]を用います。また遠赤外線に対する感度を測定するために図2のような波長155μm付近の光のみを透過するバンドパスフィルター等を光路に挿入しています。


filter transmission
↑↑図2:フィルター類の総透過率


 測定開始から約40秒間光を当て、40秒間さえぎり、再び40秒間光を当てる、という操作を行ったところ、図3のような出力変化が得られました。


sensitivities measurement
↑↑図3:感度測定


 この変化幅から感度を計算すると、感度は(1.9±0.3)×103[A/W]という値が得られるのですが、この値が本当であるとすると光子1個が検出器に入射した場合にできるホールの数である量子効率ηが1を超えてしまい、理論的におかしな結果となってしまうことがわかりました。実はこれはGe本来のエネルギーバンドギャップに相当する0.67eVの近赤外線を素子が感知し、信号が大きくなりすぎてしまっていたことが原因でした。図2の近赤外線の部分の透過率はデータがはっきりしておらず、この部分の光が透過していたものと考えられます。  素子が本当に近赤外線を感知しているのかを確かめるために信号変化の黒体炉温度依存性を調べました。もし信号が遠赤外線のみによるものであれば、変化幅は温度に比例するはずです(レイリージーンズ則により、遠赤外線のエネルギーは温度に比例するため)。しかしながら近赤外線による信号が混入していた場合は温度の増加に伴い信号が指数関数的に増加するはずです(ヴィーン則)。また遠赤外線は透過するが近赤外線は透過しない物質の1つにポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)があります。これを光路に挿入し、近赤外線が確実に遮蔽されていると思われる状態でも温度依存性を調べました。(図4)


temperature dependence
↑↑図4:信号変化の黒体炉温度依存性

 図4を見ると確かにテフロンありの場合は温度依存性が直線的であるのに対し、テフロン無しの場合は非直線的に増加しています。このことから素子は近赤外線を感知するものであり、テフロンによってその近赤外線を遮断できると判断することができました。 以上を踏まえて感度を再度測定・計算すると、(2.4±0.7)×102[A/W]という値が得られ、これは量子効率にしてη=0.13であり、十分妥当な数値であると判断しました。またこの感度の数値は国内外の圧縮型Ge:Gaを用いた他の検出器と比較しても非常に高い値であり、電磁波解析を駆使して入射する光のエネルギーが効率よく素子に吸収されるように開発した成果が表れていると考えられます。



2016年12月 担当:大山 照平


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