★姿勢制御‐重心調整機構の導入-★

1.概要

 FITE用望遠鏡は3軸制御方式で姿勢制御を行います。この方式は角運動量保存 によって成立しますので、気球との懸架点とゴンドラの重心が常に一致しなければなり ません。しかし、実際の観測において気球は目標の高度を一定に保つ為にバラストを投下 していき、さらに赤外線検出器の冷却用の寒剤なども蒸発していきます。その結果ゴンド ラの重心が懸架点から鉛直方向にずれ、ゴンドラは気球に対し2重振子運動をし始めます。 この状態での3軸姿勢制御は技術的に困難なため、新たに重心調整機構を導入しました。 この装置の役割はゴンドラの重心を気球との懸架点に常に補正し続け、観測に悪影響を 及ぼさないことです。


2.装置の選定・改良

 ゴンドラの総質量とバラストの質量・設置位置より、バラスト全投下時にゴンドラの重心が約60mm鉛直方向 に移動すると見積もられています。これを補正するにはゴンドラ上で錘を鉛直下方向に下げれば良いはずです。 重心計算より約30kgの錘を最大1500mm下方に移動させれば重心を懸架点に保つことが出来ます。またバラスト を1時間かけて投下する見込みなのでゴンドラの重心も1時間かけて連続的に変化していきます。 よって重心調整機構として自動ステージSGSP65-1500(X)(シグマ光機(株)製)を採用しました。この装置は ボールねじを採用しており、ステッピングモータのパルス数を制御することで錘の移動量を50μmオーダで調整する ことが出来ます。さらにパルス周波数を調整すれば錘の移動速度を制御できるので迅速にかつ精度よく重心を補正し 続けることが可能であると判断しました。自動ステージを図のように2台設置すれば錘の昇降で調整できる重心の成分は 鉛直成分のみとなります。


auto stage
↑↑自動ステージSGSP65-1500(シグマ光機(株)製)


layout
↑↑ステージ配置図


 しかし、この装置は水平用であるので錘15kgを搭載して鉛直に設置すると錘の重力によるトルクがボールねじ に加わります。これは常にねじ軸を反時計(シャフト側から見た場合))回りに回そうと力がかかるという意味です。 ステッピングモータによる保持力がこの重力トルクより小さいため、このままでの装置仕様ではモータの電源ON,OFFに関 わらず錘を固定することが出来ません。 そこでモーターとボールねじの間にウォームギアを取付け、新たに取付け台座を設計し組立てました。ウォームギアを 導入することで錘の重力トルクをモーターシャフト軸に及ぼさなくなります。ウォームギアの減速比が1/10であるため モータが生み出すトルクは従来の10倍になり30kgの錘の昇降も可能になりました。一方で錘の移動速度が1/10になりました が、前述のとおり重心は1時間かけて変動するため十分のの変化に対応できます。


basement
↑↑作成した新たな台座


 また、高度40kmで動作を可能にするため、摺動部の潤滑油を全てシリコーン系オイルに交換しました。ボールねじは正確 な位置決めをする精密機械であるため潤滑油の硬化が最も考えられる動作不良の原因であると考え実施しました。具体的 にはウォームギア・ベアリング・ボールねじの要素が交換の対象となっております。


3.ゴンドラへの設置

 上記の改良が済み、実際にゴンドラに取付けました。観測後気球と切り離す際、ゴンドラには最大10Gがかかることを考慮 して設置方法はゴンドラとステージの間にスペーサを挟みM10のボルトで計8か所固定しています(1台に付き)。このとき、 錘の昇降試験と精度試験を地上環境で行いました。1500mm移動するにはステッピングモータに30万回パルスを送ればよいは ずです。すなわちリミットセンサー間を複数回昇降させ、その際送ったパルス数を調べることで精密に稼働しているか判断 出来ます。試験の結果、1時間往復させても精度は変わらず動作したことが確認されました。この時錘は17kg、パルス周波数 2000Hzです。本ステージの動作上、パルス周波数200〜4000Hzの範囲で試験を行いましたが、モータのトルク出力と錘の荷重 、及びウォームギアの入出力許容トルクの関係で2000Hzでの運用が望ましいと判断しております。

installation
↑↑ステージ取り付けの様子

4.環境試験

 実際の運用では高度40kmの環境下(気温:−40℃,気圧:数十Pa)での稼動となります。実際に同環境を再現しステージの 精度試験を宇宙科学研究所にて行いました。


testing
↑↑環境試験の様子(場所:宇宙地球科学研究所)


 恒温槽の大きさの関係で自動ステージを垂直に立てられなかったため、水平動作での精度試験を行いました。その為、錘が する仕事量をモータのする仕事に置き換え、錘が上昇するときの負荷分を駆動電流を抑えることで錘を上昇させるときの 環境を再現して試験を行うことにしました。(駆動電流1.4A→0.66A) 試験の結果、冷却・減圧環境下での自動ステージの動作(パルス周波数2000Hz以下)は地上と同様に正常であることが確認され ました。これにより、高度40kmの環境下で錘17kgを精密に昇降させる事が可能であると判断し、FITE用の重心調整機構として 正式に実装することになりました。




5.今後の課題

 課題としては錘の下降時にステージで発生する振動がゴンドラのフレームに伝わる点です。観測中に重心調整を行うと光学系に 振動が伝わり、観測に悪影響が及ぶ恐れがあります。そこで現在、防振ゴム(天然ゴム製)を導入して検証しておりますが、高度 40kmの環境下で防振ゴムの機能が保証しきれないため、ワイヤーロープ防振器等の導入も視野に入れております。しかし、実際に 観測中自動ステージをどの程度・どの頻度動かすかは決めておりませんので、防振器導入についてはゴンドラ全体の姿勢制御試験 を通した後で決定しようと考えています。




2016年3月/担当:谷 貴人


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