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Science


1.系外惑星
 太陽系には地球を含め8個の惑星が存在します。太陽以外の恒星にも同様に惑星が存在するのではないかと考えるのは自然な発想です。このような太陽系の外に存在する惑星のことを太陽系外惑星、または系外惑星と呼びます。
 惑星は恒星と比べて遥かに暗いため、系外惑星の検出は容易ではありません。系外惑星の発見を主張する報告自体は19世紀には既にされていましたが、それらは全て誤検出であることが後にわかっており、実際に系外惑星が発見されたのは1990年代になってからです。当時の観測技術では木星のような巨大ガス惑星にしか感度がなかったため、多くの研究グループは太陽系の木星のような、10年程の長い公転周期の惑星のシグナルを捉えようとしていました。ところが1995年に初めて発見された系外惑星は、ペガスス座51番星という太陽に似た星の周りを約4日という非常に短い周期で公転する巨大ガス惑星でした。公転周期の短さは公転軌道の中心星への近さに対応するため、これは、この巨大ガス惑星が太陽系の水星よりも遥かに内側の軌道を公転する灼熱の惑星であることを意味します。この当時の常識を覆す大発見によりスイスのMichel Mayor博士とDidier Queloz博士は2019年のノーベル物理学賞を授与されました。
 1995年の大発見以降、中心星近傍の短周期の惑星探査が多くの研究グループにより行われるようになりました。その結果、次々と新たな系外惑星が発見され、2019年の時点では4000個以上の系外惑星の発見が報告されています。特に2009年にサーベイを開始したNASAのKepler計画は中心星の近くを公転する惑星を2300個以上発見し、約3割の太陽型星がそのような主星近傍の惑星を持つことを明らかにしました。
 一方で、太陽系の木星から海王星の軌道に相当する外側の領域に関してはまだ十分に系外惑星探査が進んでいません。この領域は「スノーライン」と呼ばれ、惑星形成が最も活発に起きたと考えられており、惑星形成過程を理解するためには、同領域の惑星分布を解明することは非常に重要です。この外側の軌道領域で地球質量の惑星にまで感度を持つ唯一の手法が、PRIME計画で用いる重力マイクロレンズ法です。2019年までに同手法により、この外側の軌道領域をまわる惑星を含んだ、80個程度の系外惑星が見つかっています。しかし、これは上述の主星近傍領域の惑星発見数の数%に過ぎず、惑星の様々な分布を測定するにはまだまだ統計量が足りません。PRIME計画は世界初の重力マイクロレンズ系外惑星探査用近赤外望遠鏡を建設し、多くの系外惑星を発見することで外側の軌道領域における惑星の統計量を増やし、同領域における様々な惑星の分布を測定します。

2.重力マイクロレンズ法による系外惑星探査
 PRIME望遠鏡では重力マイクロレンズ現象を利用した重力マイクロレンズ法と呼ばれる手法により系外惑星の観測を行っています。重力マイクロレンズ現象とは、地球と光源星(ソース天体)の間を恒星質量程度の天体(レンズ天体)が横切る際、レンズ天体が持つ重力場がソース天体からの光を曲げることでレンズのように作用し、地球からはソース天体が増光して観測されるという現象です(図1)。

 図1:重力マイクロレンズ現象の模式図。ソース天体の光がレンズ天体の重力場に曲げられることにより、地球の観測者からは増光して見える。

 このとき、レンズ天体が単独の星(シングルレンズ)であれば増光曲線はごく単純なものになりますが(図2)、レンズ天体が連星系や惑星系である場合は増光曲線にシングルレンズからのズレ(アノーマリー)がみられます(図3)。このようなアノーマリーが見える増光曲線を詳しく解析することにより、連星系や惑星系を発見することができます。

図2:シングルレンズによる増光曲線の例。もっとも単純なシングルレンズの場合、増光曲線は上図のようにピークを境に対称なる。

図3:アノーマリーがみられる増光曲線の例。レンズ天体が惑星や伴星を伴う場合、増光曲線に上図の鋭いピークのように、シングルレンズの場合の曲線からのずれがみられる。このアノーマリーの継続時間は、惑星の場合で数日から数時間程度である。そのため、重力マイクロレンズによる系外惑星探査には高頻度の観測が求められる。

 重力マイクロレンズ法による系外惑星探査はソース天体の光を利用しており、レンズ天体の明るさに依存しないという点から、暗い恒星周りの惑星や浮遊惑星も発見することができます。また、私たちが日常で用いるガラスレンズなどでは光の曲げられ方は波長によって異なりますが、重力レンズによる光の曲げられ方は波長によらないという性質があります。そのため、あらゆる波長の光で同様に観測が可能であるという点も重力マイクロレンズ法の特徴です。この重力マイクロレンズ法による系外惑星探査によって、毎年数個の系外惑星が発見されています。
 図4は、これまで発見された系外惑星の質量と、主星からの距離をプロットした図で、赤い点が現在までに重力マイクロレンズ法により発見された系外惑星を表しています。これを見ると、重力マイクロレンズ法はスノーライン以遠の低質量惑星にまで感度がある唯一の惑星探査法であることがわかります。スノーラインとは、水やアンモニア、メタンなどが気体から固体となるために十分低温となる主星からの距離のことで、太陽系の場合は太陽から約2.7AUが水のスノーラインにあたります。スノーライン以遠では固体分子が急増するために惑星のコアが成長しやすく、惑星形成が活発になると考えられています。スノーライン以遠の惑星にまで感度を持つ重力マイクロレンズ法によって系外惑星探査を行うことは、惑星形成過程の解明に大きく貢献すると考えられます。

図4:横軸は惑星の主星からの距離をその惑星系におけるスノーラインまでの距離で規格化した値、縦軸は惑星質量を木星質量で規格化した値である。赤い点は重力マイクロレンズ法、黒、青、黄、紫の点はそれぞれ視線速度法(Radial Velocity)、トランジット法(Primary Transit)、直接撮像法(Direct Imaging)、TTV(Timing Transit Variation)により発見された系外惑星を表す。

3.近赤外線を用いた銀河中心方向の観測
 PRIME望遠鏡では近赤外線を用いて銀河中心の観測を行っています。従来の可視光による観測では、地球と銀河中心の間にある星間物質のために星間減光が大きく、銀河中心方向(銀経2度以下の領域)の深くにあるソース天体が起こす重力マイクロレンズ現象を捉えることができませんでした。一方、近赤外線観測では星間物質の影響を受けにくく減光が小さいため、可視光観測では見ることができない領域も観測可能となります(図5)。また銀河中心は星密度が高い領域であるため、より多くの重力マイクロレンズ現象を観測することができ、惑星の発見数が現行の可視光観測に比べ約4倍にまで増加すると期待されています。惑星の発見数が増えることにより地球質量以下の惑星検出数も増え、惑星分布を今よりも正確に見積もることができます。さらに、このような星密度が高い領域での惑星頻度を見積もり、従来の可視光観測の領域と比較することで環境による惑星頻度の違いを検証することができます。この試みは世界でもPRIMEが初となります。

図5:可視光で見と近赤外で見た銀河中心。可視光では銀河中心は減光により黒く映っているのに対し、近赤外では光って見える。

4.Romanとのシナジー観測
 2025年頃にはNASAの宇宙望遠鏡:Roman(Nancy Grace Roman Space Telescope)の打ち上げが予定されています。Romanは宇宙空間において重力マイクロレンズ法による系外惑星探査を行い、これは72日間にわたって銀河系中心方向、約 2平方度の星1億個に対し15分ごとに24時間隙間なく続けられます。そのため、Romanには地上望遠鏡と比べはるかに良い精度で観測ができるというだけでなく、昼夜を問わず24時間連続で観測を行うことにより、数日〜数時間の短い惑星シグナルを見逃さないというメリットがあります。
 Roman打ち上げ前のPRIMEの観測による、Romanの重力マイクロレンズ観測領域の最適化もPRIMEが掲げるサイエンスの一つです。Roman稼働までの期間にPRIMEの観測によって得たイベントレートマップから、より高効率なRomanの重力マイクロレンズ観測領域を構築することを目的としています。 また、Roman打ち上げ後は、PRIMEと連携し、同じ重力マイクロレンズ現象をPRIMEとRomanの双方で同時に観測することになります。これにより、地上望遠鏡と宇宙望遠鏡という2地点から観測することによる視差の効果、"スペースパララックス"を検出することができ、発見される惑星の質量や軌道半径などの物理量により強い制限をつけることができます。