本研究室での研究と関係する話題について。



宇宙の赤外線観測

赤外線とは

電磁波には様々な波長領域に対して名前が付けられており、 1〜300μmを赤外線と呼んでおり、呼称はさらに分解され 、1〜5μmを近赤外、5〜30μmを中間赤外、30〜300μmを遠赤外 線と呼んでいます。そしてこれらの波長を主に放射する物質には 比較的低温という共通した性質があり、10K〜3000Kの温度 のとき、放射強度分布の赤外線領域にピークがくることが 示されます。

観測と赤外線の意義

自然の振る舞い(特にここでは宇宙空間でどういった事が展開 されていくのか)を記述するためには、まず対象となる系の 情報が必要となります。例えば、星形成・その周りでの惑星形成 過程を解明しようと思ったとき、既知の物理的知識を背景に 様々な仮定・近似の下、おおよその過程を創造します。 いつの時代もそうであったようにこれを支えるのが現象論的 事実です。つまり、観測によるデータです。
そして今の例の場合では赤外線が(も)活躍します。天体や宇宙空間に存在する多くの物質は 赤外線を放射しており、星形成・惑星形成の誕生場所とされる 原子惑星系円盤を赤外線で観測することで、様々な物理量の データが得られます。赤外線源物質の具体的な物としては塵(固体微粒子、ダスト)に よる熱放射、低温の星・惑星、遠くの銀河(赤方偏移)などがあります。 宇宙空間にあるダストは、高エネルギーの天体に あたためられると、そこからの放射を吸収して、 自分自身があたたまり、赤外にピークを持つ ような再放射を行います。つまり、周囲の世界と 関係し、エネルギーの受け渡しをすることが できるダストが原始惑星系円盤中でも同じ働きをし、星にあたため られたダストが赤外で放射するといった具合です。
この他にも、銀河の形成と進化の過程を解明するためであったりと 、様々な宇宙空間現象の解明に赤外線観測は有用なのです。

赤外線観測

地球には天体観測にとって問題となる大気があります。なぜなら大気は 赤外線の多くの領域に対して不透明だからです。 ちなみに全ての波長領域で不透明というわけではなく、 大気の窓が空いているところ(主には近赤外線;以下図参照)が あります。 このように、赤外線による観測は 大気の影響がなくなるほどにまで地上から離れて 観測する必要があるわけです。
また、観測する機器本体も強い赤外線源となるため、 極低温に冷却された状態に保つ必要があります。

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系外惑星

概要

系外惑星とは太陽以外の恒星のまわりを回る惑星の事です。
太陽系以外に惑星系があるかどうかは昔から多くの科学者の興味の対象でしたが、 実際に天文観測が始まったのは1940年代からです。
しかし、観測技術の問題でなかなか惑星系は見つからず、初めて系外惑星が観測されたのは1995年で、 ペガスス座の51番星に木星程度の重さの惑星が回っているのが発見されました。
その後現在までに、約300個の惑星が発見されていて、惑星系について統計的な議論がなされるようになってきています。 太陽系外の惑星系について研究することは、惑星系がどのようにしてできた か、特に私達が住んでいる太陽系がどのようにしてできたか、生命の存在するよ うな惑星が地球以外にも存在するのか、などの疑問に答えていく上で大変重要な ことであると言えます。
この研究室では、赤外線を用いて系外惑星についての研究をしています。

系外惑星の種類

1995年に初めて惑星が発見されて以来、様々な性質の惑星が発見されています。 これまで発見された系外惑星の多くは、観測のバイアスがあるため(中心星の近 くを回る巨大惑星が発見されやすい)太陽系と性質が異なっています。
軌道長半径が太陽地球間距離の1/10より小さいところに木星程度の質量の惑 星が多数発見されています。これらを「ホットジュピター」と呼びます。また、 太陽系の惑星がほぼ円軌道を回っているのに対して、系外惑星では大きな離心率 をもった楕円軌道のものが多く、これらを「エキセントリックプラネット」と呼 んでいます。
このように太陽系と性質が違った惑星が多数発見されたことにより、太陽系 のみを考えていた惑星形成論は修正され(なぜ巨大惑星が小さな軌道半径のとこ ろにいるのか、離心率はどうやって上がっていったのかなど)軌道移動モデル、 軌道不安定モデルなど、新しいモデルが考え出されつつあります。



系外惑星の観測方法

系外惑星の観測方法には大きく分けて、直接法、間接法の2種類あります。
直接法
惑星自身からの光を直接望遠鏡でとらえることにより観測する方法です。
中心星からの光と惑星からの光を分離して検出しなければならなくて、中心星と惑星の光度差は、太陽系最大の木星程度の大きさの惑星の場合でも、可視光の領域で10億倍もあり、中間赤外線の領域でも1万倍もあるため、観測技術が足りなく、これまでこの方法で観測された惑星はありません。 今年度からすばる望遠鏡を用いた、惑星の直接撮像を目標としたプロジェクトであるSEEDSが始まり、 この研究室もプロジェクトに参加しています。 惑星を直接観測すると、そのスペクトルなどから惑星を構成する物質が何なの かが分かるので、惑星の研究に役立ちます。

間接法
1.視線速度法
惑星が中心星の周りを回ることによる中心星の揺れを検出することにより、惑星を発見する方法です。
初めて発見されたペガスス座51番星の惑星もこの方法により発見されました。

ある中心星のまわりをもし惑星が回っていると、中心星は惑星によってほんの少しだけ揺れ動きます。
通常恒星からの光には、その恒星に含まれる元素に 相当する吸収スペクトルが見えるのですが、恒星が揺れ動くと、その吸収スペクトルはドップラー効果によって 本来の波長からずれます。
視線速度法とはそのスペクトル線のずれを長期間測定する事によって惑星を検出するという方法です。
大きな惑星が中心星の近くを短周期で回っているようなときに観測しやすく、小さい惑星や、 遠くを回っている惑星などは観測しづらいという特徴があります (つまり太陽系のような惑星系はこの方法では発見しづらいということになります)。 今まで発見された惑星はほとんどこの方法によるものです。
2.高精度位置観測
視線速度法が中心星の揺れをスペクトル線のドップラー効果で検出しようとするのに対して、 中心星の揺れを位置で検出しようとするものです。
中心星の揺れはとても小さいので、2007年4月現在ではまだ検出に成功していません。
3.トランジット法
惑星が中心星を横切り、食を起こす事によって、中心星が周期的に減光する事 を測定することにより、惑星を検出する方法です。
1%程度の精度の観測で惑星を発見することができる反面、惑星軌道面と観 測者の視線方向がほぼ一知していないと観測できないので、惑星系のほんの一部 しか観測できないという難点があります。今までこの方法で約50個の惑星が発見 されています。
4.マイクロレンズ法
光が天体などの重力によって曲げられるという効果を重力レンズ 効果と呼ぶ。特に星質量程度以下の軽い天体によってレンズを受け、背景天体が増光される現象を重力マイクロレンズ効果と言う。これを用いて惑星を見つけるという方法が(重力)マイクロレンズ法です。
通常、銀河系のバルジ(銀河系の中心部分)の星からの光 が、バルジ及び円盤内の恒星(レンズ星)によって増光される現象を観測しています。 このとき増光期間は平均20日程度で左右対称のスムーズな光度 曲線になります。もしこのレンズ星のまわりを惑星が回っていた ら、恒星による長い増光の他に惑星による短い増光が見えます。これにより惑星の存在を確認することができます。 この方法は他の方法と違って、地球の軌道半径より外側を回っている比較的軽い惑星を 検出しやすいという特徴があります。
我々の研究室は、日本とニュージーランドの国際共同研究グループであるMOA (Microlensing Observations in Astrophysics)コラボレーションに参加して、重力マイクロレンズによる系外惑星探査を行って行っている。

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原始惑星系/残骸円盤

原始惑星系円盤

 太陽のような主系列星の前段階で年齢が100万年程度の若い星である、おうし座T型星の周りに、 星間ガスが収縮して恒星になっていく過程で残されたガスやダストからなる円盤状構造が見られる場合があります。 この円盤状構造が発展して惑星を形成すると考えられ、これを原始惑星系円盤と呼びます。
 通常、この円盤は恒星や惑星の成長と共に消失してしまいます。 ダストは成長して微惑星となり、微惑星の合体集合によって 惑星が形成されるとともに、ガス成分は恒星からのエネルギーを受けて吹き飛ばされたり、 大気として惑星に流れ込んだり、あるいは恒星に落ち込んだりすると考えられるからです。

残骸円盤

 しかし、主系列にいたった恒星の周りに円盤が残っているケースもあります。
原始惑星系円盤の中で形成された惑星が微惑星に重力的な揺さぶりをかけるために、 微惑星同士の衝突が促され、ダストにまで砕けると、それらのダストが円盤を形成することがあります。 惑星の材料の残骸(=デブリ)でできているため、円盤は残骸円盤、またはデブリ円盤と呼ばれます。
 1984年にIRAS衛星によって、こと座のベガが、 同じスペクトル型の他の恒星に比べて赤外線を多く放射していることがわかりました(赤外超過)。 赤外超過の見られる主系列星をベガ型星と呼びます。
同じく1984年に、可視光で、画架座β星のまわりに多量の塵からなる円盤が撮像されたことから、 ベガ型星の赤外超過は星を取り巻くダストから放射されているものであろうという説が有力視されるようになりました。
 こうしたデブリ円盤には特徴的な構造を持つ傾向があります。 ゆがみ、塊など、特異な構造が観測されています。
このように、伴星の重力の影響を受けないような星の周りにも、複雑な構造を持つ円盤が存在すると言うことは、 円盤中での重力的な乱れ…つまり惑星の存在を示唆する可能性があります。

原始惑星系円盤、残骸円盤はともに惑星形成の場であると考えられ、さかんに研究がすすめられています。

いろいろな円盤

 以下に今までに観測されたいろんな円盤の画像を挙げます。
円盤を観測しようとするときの困難は、まず中心星に比べて円盤が非常に暗いと言うことがあげられます。 このため、円盤を撮像しようとするときはコロナグラフなどの手法を用いて中心星をマスクします。 中心部分の黒丸は、中心星のマスクとそれによって生じる画像の乱れを隠すためのものです。上下左右に広がって見える直線状の構造は、 望遠鏡の副鏡を支える支柱の影で、円盤の構造ではありません。


ぎょしゃ座AB型星をとりまく原始惑星系円盤。 すばるによる近赤外線(1.6ミクロン)の画像。 円盤のダストが中心星からの光を散乱して光っている様子をとらえている。
 円盤はそれまで平坦でのっぺりした構造だと 思われてきたが、うずまき状の円盤が存在 することを明確に示した観測結果。 うずまきができるのは、円盤が多少重いために起こる自己重力不安定性が 原因ではないかと考えられている。
 惑星形成理論では、コア集積と、円盤の自己重力不安定性という2つの対立する モデルが古くから提唱されており、最近では前者が一般的であるとされているが、 この観測によって、不安定性により円盤にうずまき状の密度構造が現れることが 明らかとなった。この構造が惑星形成にどういった影響を及ぼすかという理論研究が 現在も進められている。

HD 142527 という星の原始惑星系円盤。すばるによる1.6μmの画像。 円盤が東西に分かれ、真ん中に穴があいている。 この形態から、星の近くに、離心率の大きい軌道を 回る伴星か惑星が存在する可能性が指摘されている。


画架座β星のデブリ円盤。すばるによる1.6μmの画像。
黒く穴のように見える箇所は、受光素子の故障によるもの。
よくみると密度分布が対称ではなく、むらがあることがわかっている

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すばる望遠鏡を用いた観測

ハワイのマウナケア山の頂上にあるすばる望遠鏡には、HiCIAOという新しい近赤外線 コロナグラフカメラが搭載される予定です。このHiCIAOを用いて、系外惑星の初の 直接撮像を目指す観測や、原始惑星系・残骸円盤の詳しい観測を行っていく予定です。


HiCIAOについて

惑星は自分で輝かず、また中心星に比べて非常に小さく、中心星の近くに存在する暗い天体なので、もし直接見ようとするならば、 まず中心星の光を消すこと、中心星と惑星を区別するために高い解像度(例えば太陽系から100pcだけ離れている恒星の周り10AU を回る惑星を中心星から区別しようとすると0.1秒角の解像度が必要)が必要です。 解像度は主に望遠鏡の口径(すばるの口径は8.2m)と観測波長で決まる(解像度〜観測波長/口径)のですが、 それくらいの高い解像度を得ようとすると、地上での観測ではどうしても大気のゆらぎの影響を受けてしまいます(大気のゆらぎは約1秒角)。 これらの必要性を満たす方法が「コロナグラフ」と「補償光学」です。


コロナグラフ

焦点面に遮光円盤をおくことで、中心星を遮光し、中心星周りのものを観測する装置のことです。 HiCIAOは左図のようなしくみのコロナグラフを用いています。 この装置はリオ式コロナグラフと呼ばれています。 補償光学により補正された光はまず焦点にある遮光板を通ります。これによって中心星の光が遮られます。 次にリオストップと呼ばれる装置で周辺部分の回折光、散乱を遮ります。
コロナグラフ


補償光学

大気のゆらぎをリアルタイムに打ち消すような仕組みになっています。 まずすばる望遠鏡のナスミス焦点(すばる望遠鏡に4つある焦点の1つ)に入射してきた光を、可視光と赤外線にわけ、 可視光の方は補償光学の装置に送られ、波面がどのように歪んでいるかを測定します。 そのデータは直ちに可変形鏡という、表面の形を自由に変形することの出来る鏡に送られ、そのデータをもとに、可変形鏡は大気のゆらぎを打ち消すような形に変形します。 ナスミス焦点に入射してきた波面の歪んだ光は、この変形した鏡によってまっすぐの波面に補正され、コロナグラフ装置に送り込まれるという仕組みです。 SEEDSで用いられる補償光学装置は、波面センサーの素子の数が188個あるのでAO188という名前がついています。
補償光学
これらの仕組みを用いて、HiCIAOは1.6μmの波長を観測するなら、0.04秒角の空間分解能、 コントラストは、太陽より少し小さいK型星の周り0.5秒角の惑星を観測する場合、3×10-5の性能を持つことになります。 つまり、例えば100pcにある恒星の周り50AUを回る恒星に対して30万倍暗い惑星(木星質量の10倍くらい)なら検出可能ということです。 (参考 太陽に対して木星の明るさは近赤外線で約1010分の1(HiCIAOで観測するのは近赤外線))


ターゲットについて

今回ターゲットとするのは牡牛座ブレアデス星団に代表される、若い星の集まりである散開星団です。 散開星団は年齢が若く、明るい星を多く含み、ある散開星団に属する星はすべてほぼ同じ年齢です。 従って、散開星団は普通の星に比べて年齢の不定性が非常に小さいという特徴があります。惑星の形成を議論するとき、中心星の年齢は非常に重要なパラメータとなります。 (理論的なモデルと比較するときなどに年齢は重要になってきます)一般に恒星の年齢を精度良く決定するのは難しいのですが、散開星団は年齢が決定しやすいという利点があります。 また、同じ散開星団に属する星は距離や化学組成がほぼ等質であるので、惑星形成論に観測的制限をつけやすいという利点もあります。


研究の意義

惑星の直接撮像をすると、惑星の形成、進化についてこれまでと違った情報が得られます。 例えば今まで観測で見つかった惑星は中心星の比較的近くをまわるものが多いのに対し(視線速度法もトランジット法も中心星の近くをまわる惑星を検出しやすい)、直接撮像で観測出来る惑星は、外側にある惑星の可能性が高く、今まであまり観測されていなかった外惑星の振る舞い(例えば形成過程がどのようなものかなど)について情報を得ることが出来ます。 また、惑星から来る光を直接見ることになるので、惑星の大気の組成についてなども、今までよりもずっと詳しい情報が得られます。


今後の予定

SEEDSは今後平均3年間、最大で5年間続くプロジェクトです。 最初の2年間で、40個の天体を観測します。この40個の天体は、プレアデス星団から選ぶということが既に決まっています。 現在は各天体についての情報収集や、ターゲットの絞り込みなどを行っています。試験観測は秋から始まる予定です。


関連リンク すばる望遠鏡

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